育児放棄の“ウソ演出”で家族が炎上 児相通告レベルの企画をなぜ強行? 「ナイトスクープ」が踏み越えた一線

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「演出」は言い訳

 育児放棄の様子が映されているとして騒ぎとなった1月23日放送の朝日放送「探偵!ナイトスクープ」(金曜午後11時17分、全国31局で放送)。その後、同局側から、一般的にはやらせと呼ばれる演出を使っていたことが明かされたため、問題が収まらない。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 制作者が自分の番組をやらせと認めることは決してない。その番組がやらせと認定された時点で、打ち切りとなるからだ。だから、なんでもかんでも「演出」で済ませようとする。

 ドキュメント風バラエティ「探偵!ナイトスクープ」の同23日放送分も朝日放送は演出があったと説明する。だが、そうとは到底思えない。同局がシラを切っているか、同局の常識が世間とズレているかである。

 以下、同局が演出と主張する部分だ。まず番組に小学校6年生男児から依頼が届いた。これは本当。男児は8人家族。共働きの両親の代わりに長男として5人の弟、妹の世話をしているという。

 番組で紹介された長男の依頼文の一部は次の通り。

「正直、長男やるの疲れました。生まれてから長男しかやったことがないので1日だけでもいいので次男になりたいです。探偵さん、ぼくの代わりに長男やってくれませんか?」。

 両親から家事ときょうだいの世話を押し付けられているからである。もっとも、同26日夜になって同局が明かした本物の依頼文の主旨はこうだ。

「家族8人みんなで家事や育児を協力しあって頑張っているが、他の兄弟よりも僕が一番頑張っている。他の家族の子供と比べてどうなのか調査して欲しい」

 内容がまるで異なる。なぜ「長男をやるの疲れました」などと付け加え、虐待からの救いを求めているような内容にしたのか。

 同局は「番組側とご家族で内容を確認・相談したうえで、放送用に構成・改稿した」と説明するが、依頼文をほぼ全面的に書き直した理由の説明はない。

 同局は「依頼文の内容は家族側に確認し、相談した」とするが、その文面が広く知られたときのリスクを十分に説明したとは考えにくい。また放送後にどんな余波が想定されるかも伝えなかったのだろう。

 両親は番組の放送中からSNSなどによって誹謗中傷されている。この企画では当然の流れである。番組側が想定されるデメリットの説明をきちんと行っていたら、この企画に協力する人などいないはずだ。

 やはり26日夜に明かされた映像の演出にも触れたい。普段なら家事や育児を担う父親が、乳幼児らを残して外出した場面はウソ。映像の終了間際に母親が長男に向かって「コメ炊いて、7合」と告げたのもウソだった。

「やらせ」の定義

 これにより、この企画は背骨が失われたことになる。事実は長男の本物の依頼文の通りだった。これを演出とは呼べないだろう。世間の感覚ではやらせ、あるいは捏造だ。

 大手制作会社のプロデューサーに「演出とやらせの違い」を教えてもらったことがある。有名な話なのだそうだ。まず行列の出来るラーメン店に取材に行ったら、その日は行列がなかった。それで人を集めて並ばせた。ここまでがギリギリ演出なのだという。事実を捻じ曲げたわけではないからである。行列など出来ない店に人を並ばせたら、やらせ。ウソだからだ。「ナイトスクープ」は後者だろう。

 番組はなぜ間違えたのか? まず想像力と社会常識が欠けていた。両親が6人きょうだいの長男に家事や育児を任せきりにしているとなったら、大抵の人は色めき立つ。こんな企画が成立すると思うほうがおかしい。

 仮に長男が本当に家事や弟、妹の面倒を押し付けられていたとする。そうなると(児相)に届けなくてはならない事案である。児童虐待防止法第6条は「虐待の疑いがある児童を発見したら、市町村や児相への通告義務がある」と定めている。やはり番組化するどころの話ではない。

 こんな企画がどうして通ったのか、異論を挟む者はいなかったのか、このあたりも同局は今後、明かさなくてはならないだろう。同局によると、「ご家族の方々が、放送をきっかけに強い批判や誹謗中傷、詮索にさらされ、日常生活もままならない」からである。

 日常生活が送れない状態が続くことは重大な人権侵害であり、弁護士会への救済申し立てが視野に入ってくる。事の詳細をはっきりさせる必要が出てくる。

打ち切りか継続か

 BPO(放送倫理・番組向上機構)が審議する可能性も高い。そもそもBPOは「視聴者の基本的人権を擁護するため」にある機関だからだ。その場合、やはり制作過程を詳らかにする必要がでてくる。

 BPOは3つの委員会に分かれているが、この件を扱うことになったら、放送によって人権侵害を受けた場合の「放送人権委員会」か、やらせなどを調べる「放送倫理検証委員会」になる。

 今回のケースは「名誉を傷つけた問題」と「映像が演出と称する捏造だった問題」のどちらもあるため、分類の見極めが難しい。

 一部に誤解があるようだが、番組に深刻な問題があろうが、BPOが番組の打ち切りを命じることはない。最初から権限がない。調べて意見などの言葉を公表するだけである。

 たとえば昨年3月に日本「」(月曜午後10時)が中国出身者の街頭を放送した際、中国語の日本語訳を改竄した。そのほうが面白くなると担当ディレクターが考えたからだった。この問題は放送倫理検証委員会が扱った。

 その後、放送倫理違反があったと判断されたものの、ペナルティはなかった。BPOが放送の自主・自立性を重んじるためだ。自分たちで番組のつくり方を考え直せ、ということである。だから「」は現在も続いている。

 2023年3月放送の東京「激録・密着24時!!」は密着としながら、捜査部分の多くは事後撮影だった。ほかにも複数の問題点があった。これも放送倫理検証委員会が放送倫理違反があると判断。しかし、やはりペナルティはなかった。

 この番組は昨年3月に打ち切られたものの、テレ東の自主判断である。放送倫理違反と判断されるとが獲得しにくくなるし、局のイメージダウンの恐れもある。
「ナイトスクープ」もBPOによって終了させられることはない。この番組のはすべてスポット(固定化されていない)だから、スポンサーの都合で終わる可能性も低い。番組の継続か終了かは同局に委ねられる。

 同局は「ナイトスクープ」をどうするのか。それを占うにおいて、ポイントになりそうな点は2つ。まず1988年に始まった同番組は98年には最高世帯視聴率の32.2%(関西地区、ビデオリサーチ調べ)をマークしたものの、最近は8~9%程度。それでも午後11時台の放送であることを考えると、十分に高い数字だ。ABCオンンドなど動画での再生数も高い。

 全国31局で放送されているから、高額のネット料と番組販売料も入っている。ビジネス面を優先して考えると、同局が手放したくないのは疑いようがない。なお、テレ朝は流していない。1992年から何度か放送したが、世帯視聴率はせいぜい5%程度だったため、2005年に終了した。この番組は関東には合わなかった。

 その大きな理由は吉本興業のタレントが大挙出演し、関西臭が強いからだろう。吉本新喜劇を関東で放送しても受けないのと一緒である。

 番組に出ている吉本の所属者は間寛平(76)、石田靖(60)、麒麟の田村裕(46)、スリムクラブの真栄田賢(49)、今回の企画の探偵(リポーター役)(33)ら。ほぼ吉本一色である。

 同局は「出演者は企画・演出には一切関与しておりません」と説明している。それだけに終了となったら、吉本側は黙ってはいられないはず。これがポイントになりそうな点の2つ目だ。

 同局はドル箱コンテンツの「M-1グランプリ」を吉本と共同企画・制作しているから、悩ましいだろう。吉本所属のダウンタウン・浜田雅功(62)が司会を務める「」も人気番組だが、浜田と吉本の協力がないとつくれない。

「ナイトスクープ」は「日本全国アホ・バカ分布図(アホと口にする人、バカと言う人の境界線はどこか)」といったユーモラスな企画で人気番組になった。

 どうして笑い話で済むはずのない企画に手を出したのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部